採用面接に面接官とし参加した経験から、就活生が疑問に思う、プラントエンジニアリングとは何なのか、について解説します。
プラントエンジニアに求められる適性と仕事を通して身につくスキルを説明します。
その仕事内容ゆえに、なぜ激務と言われるのか、経験14年の私の生の感想をお伝えします。
プラントエンジニアリングとは?経験者視点で特徴を独自に解説
プラントエンジニアリングにどのような印象をもたれますか?
プラントを作る会社?とにかくでかいものを作る会社?
この章では、プラントエンジニアリングについて、私の経験を踏まえた特徴を解説していきます。
- 規模がでかい
- 期間が長い
- 範囲が広い
- 大人数が関わる
1.規模がでかい
文字通りプラントを建設する仕事です。そしてプラントとは生産工場のことで、大抵大規模なものとなります。
そして一品一葉となるものです。
比較対象として自動車を例に挙げましょう。
普段乗る自動車の大きさは、だいたい全長5m、幅2m、高さ2m程度です。
販売価格もピンキリとは言え、一般的に300万円程度ではないでしょうか。
一般消費者も購入し利用するので、大量生産で普及しています。
これに対しプラントとは、広大な敷地にある目的をもって立てられる建設物であり、当然特注となります。
私が取り扱う案件の契約金額も100億円とかそれ以上というのが多いです。
(その自動車を製造する工場は、プラントになりますので、商品製造するいわゆるメーカの中にもプラント設計?発注?する仕事はあるはずです。)
2.期間が長い
規模が大きいゆえに1案件あたりの完成期間が長くなります。
私の扱う施設では受注から竣工まで平均的に3年というものが多いです。
大体1年半設計し、1年間工事、半年試運転の計3年です。
あくまで目安であり、土木工事はもっと早く始まり長期間となりますし、設計と工事期間がラップする部分もあります。
この期間が長いの厄介で、1サイクル経験するのに3年かかるので、繰り返しの経験を積む機会が少なく成長を実感しにくい面があります。
同じ内容の仕事をするにも期間が空くので忘れてしまったり、そもそも同じ仕事が回ってこないで、それを指導する立場になることが多いですね。
3.範囲が広い
大規模ゆえに建設する範囲が広くなります。
先ずジャンルとして機械分野だけでなく、土木建築分野、電気計装分野などの技術で成り立っています。
さらに、例えば機械分野に絞ってみても、炉の設計だけでなく、搬送機械、ポンプなど多種多様な機械を設計するので、幅広い知識が必要になります。
各種分野に専門の担当が付くわけで、全部が全部設計できる必要はありませんが、無関係とはいきませんので、ある程度広く浅く知っておく必要があるのです。
特に、他分野の設備と取り合い点(お互いの範囲と区分点)を決めておく必要があります。
なお、これら分野の特徴を含めたプラントのわかりやすい解説した記事もありますので、参考にしてください。
4.大人数が関わる
範囲が広く複雑であるため、当然一人では設計できません。
一個人は各種専門分野を担当し、別部署の担当と情報を共有して一つのプラントの設計を進めていきます。ですので、1案件に多数の人間が関わります。
1つの案件に携わる人たちはプロジェクトメンバーと呼ぶチームで動きます。
そのプロジェクトを取りまとめるのがプロジェクトマネージャーで、プロジェクトの責任者となります。
プロジェクトマネージャーは主に工程管理、コスト管理、客先との窓口が業務内容となります。
私の会社では技術の設計責任者として、プロジェクトエンジニアを配置し、先ほどの機械だけでなく電気、土建の取りまとめを行うポジションがあります。
各部署でそれぞれの主張がありますので、その調整をするのも一苦労です。
例えば、ある機械のコストを安くしようとすると重量が重くなり、建築鉄骨は逆に高額になるなど、お互いにメリットデメリットが発生します。
この時、変更による検討期間なども総合的に判断し、両社が納得する決断を下すのも仕事の1つです。
ここまでは、設計よりの説明でしたが、設計した機械について、各機器メーカから購入しますので、そのメーカの選定から詳細設計のやりとり、製作完了時の検査など関わることになります。
さらに、実際に現地工事の段階があり、土木建築工事業者、機器据付業者、電気工事業者など、下請け会社との関わりも出てきます。
プラントエンジニアリングの最大の特徴は、この大人数が関わることだと私は考えています。
プラントエンジニアに向く適性とは?
プラントエンジニアリングの特徴を踏まえると、求められる人材や適性が見えてきます。
なお私の業務は設計なので、その設計の立場で説明となります。
- 学習能力が高い
- コミュニケーション能力が高い
- 論理的思考
- ポジティブ思考
1.学習能力が高い
専門分野も奥が深いわけですが、それだけでなく他分野の知識も必要となるため、各種知識を吸収する必要があります。
学んでも学びつくせないほど多岐に渡りますので、学習能力が高い必要があります。
学歴が高い必要はありませんが、大学院卒業している人が多いのは事実です。
2.コミュニケーション能力が高い
こちらも一般的な項目になっていしまいますが、コミュニケーション能力は必須級の能力です。
特徴でもあった通り、大人数が関わる仕事ですので、人と協力して仕事を進める必要があります。
例えば他分野の設備の取り合い点を、決める際にも他部署との関りが発生します。
自分よがりの主張ばかりしていたら、スムーズな関係が築けませんので、主張しつつも相手の意見を聞き最適な選択をする必要があります。
知識を吸収する上でも重要で、特に初心者は小学生が大学生の問題を解くがごとくわけわからん状態になります。
小さなことから始めるので安心してもらってい大丈夫ですが、実態として先輩やら年配の方に教えてもらうことから始まります。
この時、積極的かつ謙虚に真剣に学ぶ姿勢を持っていると、順調に成長していけると思います。
ダメな例とすれば、恥ずかしがったり、プライド高くて聞けないこと、教えてもらって当たり前の態度でいると良好な関係は築けないことになります。
3.論理的思考
期間が長かったり、他分野に及ぶことを踏まえると、当然ながら、工程が複雑化します。
そこで工程表を作成していくわけですが、パズルを解くがごとく、論理的に工程を組み立てる必要があります。
また作成した工程表が絶対正解かというと間違いもありますし、というか現実化することも実は難しいことがほとんどです。
そうすると、遅延対策として、工程の組み換えが発生しますので、やらなきゃいけないこと、今からできることの2面性を整理しながら、組み立てなおす必要があります。
その他、他部署との折り合いがつかない場面が多々発生しますが、都度総合的な方針を決断する必要があります。
4.ポジティブ思考
急に精神論の話になりますが、工程が長いといっても、限られた期間の中でやるべきことをやっていく必要があり、時間に余裕がありません。
ここで言うポジティブ思考を少し掘り下げて解説します。
例えば、困難な状況が発生したときに、できない理由を探すのか、できる方法を探すのかという場面を想像してください。
前者はネガティブ思考、後者はポジティブ思考と言えます。
時間が限られた中で、細かく悩まずに、その場で最適と思える、できる選択を決断していかないと先に進めません。
その選択が間違えたら、またその時に最適な方法を選らんでいくのです。
一応逆の視点のメリットも説明しておくと、ネガティブ思考を利用し、リスクの可能性を潰して進めば、手戻りなくスムーズに行くこともあります。
ですので、ポジティブに適当に決めるだけでなく、ネガティブな人の意見も取り入れバランスよく選択するのが実態です。
他にも仕事量が多くて滅入ってしまうことも多々ありますが、ポジティブに何とかなるさと、やってみることも大切です。
このようなことから、ポジティブであることが重要と思っています。
少し偏見が入りますが、研究職ではないので、高学歴(有名大学)の出身の方が不向きな面があり、コミュニケーション能力とポジティブさ、謙虚さがないとしんどいと思います。
経験者が語るプラントエンジニアリングを通して身につくスキル
私がプラントエンジニアリング14年の経験を通じて得られたスキルを紹介します。
- 問題解決能力
- 先を見通す力(リスク回避能力)
- 俯瞰(ふかん)する能力
- 指導力
- モノゴトの本質と人を見る目
1.問題解決能力
設計の立場で様々な問題にぶつかりますので、問題解決能力が高まります。
具体的には、自分が設計した機器が試運転時の実運転でうまく性能が出ないという事態が発生しました。
こういう自分の責任という場面では、必死にならざるを得ません。
根本的に全取り換えするには、費用も時間もないという場面で、部分改造で対応する選択をとったり、個人的見解で決定できないので、他分野の人を交えた会議の場で意思決定をしていくなどの経過を経て問題解決に至りました。
このような問題が、大なり小なり設計段階でも日常茶飯事で、都度決断を迫られます。
毎度悩ましいとは思いながらも、問題解決までの流れはほぼ同じで、また別の記事でその極意を紹介していきたいと思います。
問題(失敗)が発生したときに、(特に自分の責任のとき)心がへし折れるのではなく、「面白くなってきたぜ」ぐらいの意気込みで、「解決できない問題はない」と自分を信じる力が身についたと思っています。
2.先を見通す力(リスク回避能力)
問題解決能力のその先に、そもそも問題を発生させないようにするには、と考えるようになります。
特に我々は設計検証(DR)というものを良くやるのですが、これは3H(初めて、変更、久しぶり)の事象に対して、複数人で問題点と解決策を検証するというものです。
例えば、機械を水冷から空冷にするなど仕様を変更するとき、冷却水不要になるというメリットだけでなく、空冷にするとその空気の換気をどうするか、機器が大きくなるけど配置や重量は大丈夫か、メンテナンススペースが大きくなるなど、変更に伴うデメリットを検証します。
変更による影響やリスクをすべて処置できれば、晴れて採用決定となるわけです。
このように、変更した、実際に運転した、問題発生した、改造となると非常に非効率です。
対して、事前に予想し対策しておけば、そのリスクを回避することができます。
このように、選択する場面でDRのようなリスク検証を常に考え、事前に最適な選択を考える能力が身に付きます。
さながら将棋で数十手先を読むプロ棋士のような能力でもありますが、私は将棋はくそ弱いです。
3.俯瞰(ふかん)する能力
問題を解決し、事前にそのリスクを回避する力に加え、物事を結論から考える力が付きます。
特に工程を立てるときに発揮されますが、最終目標達成(この場合、竣工)に対し、その前には何を達成しなければならないか、さらにその前には何を達成していなければならいか、やることをリストアップしています。
これら複雑に存在する、いつまでに何をやるか、を明確に整理したものが工程表となるわけですが、工程表を通して、全体像が見えてくるのです。
これに対し逆の立場で想像すると、新入社員が陥りがちなのが、言われた仕事をただこなすという状態です。
私自身、上司からの指示をそつなくこなし、仕事がてできた気になっていました。
目の前の簡単な仕事をして、たいしたことないな、面白くないなと感じてモチベーション下がっていたのだから、情けない話です。
(今から考えれば、新人でもできそうな仕事を任せていただけで、もっともっと学んでほしいことがあったのだと思います。)
何が言いたいかと言えば、全体像を把握した上での、各種作業であり、各種作業の積み重ねが最終目標の達成であるということが、やっと理解できたのです。
この俯瞰でとらえるという考え方で、部分最適でなく全体最適で物事を判断できるようになりました。
4.指導力
この仕事は当然一人ではこなせる分量でないため、複数人で業務遂行することになります。
自分一人の知識や能力を上げるだけでは何も解決せず、特に部下に仕事を教え、任せていかなければならないのです。
全体を見通す力の先に、全体の目標を達成するために若手社員の戦力化も必要になるとも言えます。
このような状況から、いかに素人に専門知識を教え、実際にできるようにするかを、実践することになりました。
その中で、相手の理解に合わせた言葉のチョイス、体に染みつくまで繰り返し伝えること、できたことを褒めてあげることなどの、指導力が身に付きます。
5.モノゴトの本質と人を見る目
上記のように、色々なことを多角的に捉える習慣が身についてきます。
そうすると、言いたいことの本質は何かな?物事の本質は何かな?と表面的でなく、一見目に見えない内側を考えるようになります。
これは問題に対する根本原因を突き止める意味でもあり、相手の本心を探ることにもなります。
このように、顕在化した見えるものだけでなく、潜在的な本質を見る目が身につきました。
プラントエンジニアはなぜ激務と言われるのか?
ここまでに、プラントエンジニアリングの特徴を解説してきましたが、その特徴から以下の側面が見えてきます。
このことがプラントエンジニアリング業界が激務と言われるゆえんと考えています。
- 責任が重い
- 後半になると時間がなく、被害もでかい
- 僻地である
1.責任が重い
経験を積むと責任ある立場に任命されます。
自分が原因の問題だけでなく、他部署との調整、設計ミスによる変更など日々発生する問題に対し、解決策を決定する責任が付きまといます。
上記の責任者だけでなく、広範囲の仕事となれば、各担当にその分野の設計が任されているわけで、設計ミスは許されません。各担当にも責任があるのです。
図面段階の変更は、図面修正で事足りますが、モノが出来上がってからの間違いの発覚や変更は改造や、最悪作り直しとなり被害が大きくなります。
この変更、場合によっては1千万円の被害ということが、ざらにあり、責任の大きさ=追加コストの大きさ、ということになります。
失敗した人や、責任ある立場の人は、この被害の大きさから逃げ出したいという気持ちになるのです。
2.後半になると時間がなく、被害もでかい
1プロジェクトの工期が3年間という長い期間がかかるとして、後半の工事、試運転段階となると工期が迫ってきています。
限られた工程の中で日々業務を行っている中で、トラブルが発生すると、手直し期間で工程の変更を余儀なくされます。
この手直しは、関連部署すべてに遅延の影響を与え、現場では被害を受ける下請けの職人から不満がたまり、職長や担当、現場代理人を通して苦情を言われることもあります。
これは、参画者全員で良いものを作ろう!と一致団結していれば良いのですが、携わる人の大半は、雇われていたりと、目の前の任された範囲の仕事にしか目がいっていません。
ですから、わかっている人は協力的ですが、末端の人員にはただただ謝罪とお願いで乗り切ることになります。
責任の話と被りますが、後半になればなるほど失敗の被害が多くなるため、プレッシャーが大きいと言われています。
3.僻地である
プラント建設現場は住宅街や繁華街であることはほぼなく、人様の迷惑の掛からない山奥や海岸、工業地帯に建設されます。
設計期間は都市部の本社で設計されますが、現地工事や試運転は現地付近に駐在することになります。
その間は単身赴任になったり、遠距離恋愛になったりと、プライベートに制約を受けることは事実です。
その分、会社から手当ては出ますが、見合うと考えるかは人それぞれです。
一番の負担は、現場においては、客先や職人の窓口となり第一線で働くことになり、説得力を持って発信していかなければならない立場となります。
その上、社内の専門の技術者は本社にいますので、相談がしにくいなど、技術面でのフォローが弱くなります。
このようストレスが大きい中、環境が制限され、独自のストレス発散法を持っていないと、気が滅入ることがあります。
このような状況により、現場での負担が大きいのも特徴です。
さいごに、私個人の見解!
これからプラントエンジニアリング業界を目指す方への情報として役に立ったでしょうか。
プラントエンジニアの良い面、悪い面をスキルという側面で紹介させていただきましたが、最後に私の感じるプラントエンジニアの面白さで締めたいと思います。
まず、とにかくでかい仕事に携われる。
金額ももちろんですが、出来上がったプラントは見た目だけ見てもでかいです。
当然何かしらの機能を持った施設ですので、これが人々の、社会の役に立つものを作り上げたという、達成感が感じられます。
さらに私個人としては、多人数と関わる仕事となりますので、1つの目標に向かってみんなで協力して実現していく過程、困難を仲間と乗り越えることに、一番の感動を覚えます。
日々仲間と協力して問題解決していく瞬間は、さながらスポーツ少年漫画の激熱展開にも似た感情を得られます。
あと、リーダとして、適切な役割分担で体制配置し、臨機応変に対応するときは、パズルゲームやシミュレーションゲームをプレイしているような高揚を覚えます。
このように、仕事の中に楽しみを感じることは、プラントエンジニアに関わらず大切なことだと思いました。
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